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2020.11.13
【世界選手権おもしろ史19後編】「ベンクソン・ヨハンソンら男子欧州勢、韓国・北朝鮮女子が躍進!そして第四の危機とは?」 (2009年5月号から)
昭和22年創刊、800号を迎えたニッタクニュースのバックナンバーから編集部がピックアップしてお届けするページです。
※ここに紹介の記事は、原文を一部抜粋、編集しています。敬称略
QアンドAとエピソードでつづる世界選手権おもしろ史
1970年代(昭和46~55年)
70年代に入り、日本の優勝が「毎回1種目」に後退し、欧州男子と韓国・北朝鮮の女子が躍進。そして「第四の危機」とは?
前編の「なぜ『1種目優勝』に後退?その中で光る河野・小野の優勝」はこちらから
欧州男子の強豪が約2倍にふえ、女子は韓国と北朝鮮が躍進…。
――男子は優勝争いに加わるヨーロッパ選手がふえ、「群雄割拠の時代」を迎えたわけだね。
……そう。ベンクソン・ヨハンソン(スウェーデン)、ヨニエル・クランパ・ゲルゲリー(ハンガリー)、シュルベク・ステパンチチ(ユーゴスラビア)、セクレタン(フランス)などである。
――女子の躍進国は?
……73年に李エリサと鄭賢淑を主力とする韓国が女子団体に初優勝し、75・77年にはパク・ヨンスン(北朝鮮)が女子シングルスに2連覇した。パクはペンホルダーで、フットワークがすばらしくフォアハンドのドライブと強打が安定しており、日本代表の攻撃選手と同系の選手であった。
第四の危機―異質ラバー反転使用というワケのわからぬ変化プレー続出
――70年代は「卓球 第四の危機」ってどういうこと?
……ドライブやパワードライブが盛んな1970年代である。その威力を高めるラバーの研究が進む一方で、パワードライブを抑える用具・パワードライブを返球しやすい用具が研究開発され国際的に普及したのも、この時代の特徴である。
後者のラバーは「アンチトップスピン・ラバー」(略してアンチ)と「粒高ラバー」(略して粒高)である。特に粒高は、パワードライブをカットやショートで返球しやすい上に、それまでのラバーとは違う独特の変化球を生み出すとあって、ラケットの片面に「粒高」を貼り、サービスやラリー中にラケットを持ちかえる(反転する)「異質ラバー反転型」が大勢出現した。これによって、どんな現象が起こったか。一例をあげると、シュルベクほどの世界トップスターが、5本のサービスに対して、4本レシーブミスをするということが起こった。「今のサービスは“裏ソフト面”で出されたのか、“粒高面”で出されたのか」が、まったくわからないためである。観客からすると、一流選手がゆっくり飛んでくるサービスをどうして返せないのか、理解できない。
ラリーが続かなくなって、やっても見ても面白くない卓球がふえた。これ、まさに「卓球の第四の危機」というべきものであった。
※第一の危機については下記参照
第二の危機については下記参照
第三の危機については下記参照
●こぼれ話
カルカッタの雨
インドの2月、気候のいちばんよいときだそうな。ところが、男子シングルス準決勝の〈河野満対ヨニエル〉〈高島規郎対ステパンチチ〉の試合中に、突然の雨。未完成だった天井の一部が落ち、体育館が水浸しになった。約1時間中断。この間にバテていたステパンチチが体力を回復して逆転勝ち。高島にとっては、“うらみのカルカッタの雨”であった。
試合後、インドの代表役員が、「まさか2月に雨が降るとは思わなかった」と言ったという。なお、世界選手権が雨でプレーを中断したのは、後にも先にもこのときだけである。“インド人もびっくり”の雨による中断であった。
(編集Mより―さらなるこぼれ話)
上記の記事が書かれた2009年から7年後の世界選手権クアラルンプール大会(団体戦)で、その“インド人もびっくり”なアクシデントが勃発。天気の変化が激しいクアラルンプールでは二日に1回はスコールに見舞われ、女子準決勝中国対チャイニーズタイペイ戦を前にコート内で雨漏りが起こってしまったのです。
記者席で、ポツリポツリと降ってくる雨に濡れながら速報をしたことも、今となってはいい想い出です。
藤井基男(卓球史研究家)
1956年世界選手権東京大会混合複3位。引退後は、日本卓球協会専務理事を務めるなど、卓球界に大きく貢献。また、卓球ジャーナリストとして、多くの著書を執筆し、世に送り出した。特に卓球史について造詣が深かった。ニッタクニュースにおいて「夜明けのコーヒー」「この人のこの言葉」を連載。
本コーナーは藤井氏から「横浜の世界選手権に向けて、過去の世界選手権をもう一度書き直したい」と本誌編集部に企画の依頼をいただいた。執筆・発行の14日後、2009年4月24日逝去