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2021.01.18

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5年ぶりの優勝「新」女王・石川佳純

  • 全日本選手権女子シングルスにおいて5年ぶり5度目の優勝の石川佳純

天皇杯・皇后杯2021全日本卓球選手権大会、女子シングルス決勝は石川佳純(全農)と伊藤美誠(スターツ)が対戦した。

石川がゲームカウント1-3と劣勢の展開となるが、5ゲーム目から石川が粘り強くプレーしフルゲームに持ち込むと、最終ゲームはやや受け身になった伊藤を序盤で石川が突き放し、一度は追いつかれるが、9-9の石川のサービスから得点をあげ5度目の優勝を決めた。

 

戦術の幅が広がった石川佳純

 

2020年1月の全日本選手権。石川は2019年の1年間は東京五輪のシングルス争いをしていた。強化練習と大会で結果を出さなければいけない状況に、明らかに疲弊しており、トップフォームではなかった(結果は準優勝であったが。)

新型コロナウイルスの影響で、3月に予定されていた世界選手権は延期、また予定されていたITTF主催のワルドツアーは4月以降中止、東京五輪も翌年に延期が決定した。大会が中止・延期になったことはアスリートに取っては痛手であるが、練習をやり込んで技術を物にする石川はこの状況をプラスに変え、以前から取り組んでいた「バックハンド」をさらに強化する時間に充て、戦術の幅を広げたのであった。

迎えた2021年全日本選手権初戦。石川は、鈴木李茄(昭和電工マテリアルズ)と対戦。台上攻撃、チキータレシーブなど、バックハンドの攻撃の幅が広がり、前回大会とは違い明らかに好調なプレーで初戦を突破した。続く森薗美月(琉球アスティーダ)、前田美優(日本生命)も下し、本人も「(私は)他の選手よりも経験は多いと思うが、経験で勝つというよりもどんどん新しいことをしていってレベルアップしていくことを目標にしている。それを意識して練習してきたし、色々なことにチャレンジして試合で使っていくことを目標にしている。それが今日の3試合でできたことが自信になったし、前田選手とは厳しい試合になると思っていたので、ストレートで勝てたことは自信になった」と好調さをコメントしていた。

準々決勝。ジュニア準優勝の横井咲桜(四天王寺高)をゲームカウント4-1で下すと、準決勝は木原美悠(JOCエリートアカデミー/星槎)に勝利。自身9度目となる決勝に進出した。

 

バックハンドの技術が進化。戦術の幅が広がった石川

 

進化した「27歳」。進化を続ける「新」女王

 

「若手の勢い」「将来性」という言葉が良く使われるが、石川佳純も今回進化した選手の一人である。

女子シングルス決勝の相手は伊藤美誠。決勝は伊藤が打点の早いスピーディーな攻撃で攻め立て、「4点」というスコアで圧倒。1ゲーム目を取る。2ゲーム目こそ石川が取るが、3、4ゲーム目は伊藤が取り、王手をかける。明らかに伊藤のペースで進んでいた。しかし経験豊富な石川は、レシーブでの緩急、特にバックサイドにきたサービスに対して、低い弾道の回転に合わせるだけの返球を織り交ぜ伊藤の攻撃を狂わせる。特にコート深くに返球されるナックルボールは伊藤のミスを誘うのに効果的であった。前陣での高速ラリーでは伊藤に分があるが、石川は敢えて緩急で勝負し、このゲームをデュースで取る。

「(5ゲーム目以降)弱気になったら絶対に勝てない。サービスからの3球目、レシーブからの4球目。攻める中でも変化をつけられたことが良かった」と振り返った。

石川はフォアハンド主戦の選手。その選手が技術・戦術を変更し、ましてオフシーズンのない卓球の世界で、実戦をしながらスタイルを変えるのは相当な覚悟が必要である。バックハンド主体となると、足が止まる可能性があり得意のフォアハンドが影を潜める可能性がある。

6ゲーム目。石川はスピード重視のバックハンド、スピンを効かせたバックハンドで、伊藤のラケット角度を崩しミスを誘う。またサービスの組み立ても良く主導権を握るとこのゲームを「5点」で取る。石川に流れが傾いた。

7ゲーム目。伊藤もテンポの早い攻撃するが、石川はすぐに対応し強打を何本も返球する。負けられない両者の世界トップクラスのラリーが展開される。(筆者はスチール撮影しているので実際にラリーは見れていませんが…。)石川の勢いは止まらない。伊藤の変化のわかりづらいサービスに対し、ビタっと止まるストップ、バックハンドでの攻撃的なレシーブ、そして緻密な組み立てのサービスからの攻撃が冴え、9-5とリード。誰もが勝負あり、というスコアだ。しかしここで終わらないのが伊藤。ミドル攻撃などを織り交ぜ、すぐに4点差を追いつき9-9とする。

 

サービスのコントロールが良く、3球目攻撃に繋がった

 

9-9で石川のサービス。得意のロングサービスを伊藤のバックサイドへ。伊藤は回り込んでこれまで効果的であったミドルにドライブをする。石川はバックハンドブロックで伊藤のバックサイドに返球へ。逆を突かれたのか伊藤は強打ができず石川のフォアサイドに返球。甘いボールを石川は見逃さずストレートに渾身の強打を放つ。伊藤のブロックミスを誘いマッチポイントを握る。10-9。是が非でもこのポイントをあげたい石川。ミドルの位置に移動しサービスをバックサイドへ。コントロールの効いたサービスに、伊藤のレシーブは浮いてしまい石川のフォアサイドに返球される。甘いボールを見逃さない石川は伊藤のミドルへ強打。ただ返球するだけになってしまったボールは、石川のバックサイドに浮いてしまう。見逃さない石川は、バックサイドへ回り込みストレートへ強打。伊藤もブロックしようとバックサイドで移動するも、優勝への執念が乗り移ったボールは伊藤の脇を抜けノータッチ。この瞬間石川の5年ぶり5度目の優勝が決まった…。

 

要所でのフォアハンドストレートドライブ攻撃が冴えた

 

もう無理なんじゃないかって思うことがあった

 

石川に限った話ではないが、ボールの材質の変化により、長年の練習で培ったフォーム、戦術のモデルチェンジが必要となり、いかにプラスチックボールにフィットするかがトップ選手に求められた。石川は27歳。卓球界では「ベテラン」の域に入る。若手の台頭、結果が思うように出ない時もあり、落ち込むこともあったという。それでも周囲は石川を支え、後押しをした。

「もう全日本選手権で優勝するのは無理だと思ったし、実際に言われることもありました。でもそうじゃないことを卓球が教えてくれました」と涙声で言った石川。今の卓球界のスタイルに合わせられない選手は結果が出ないが、合わせられる選手は勝ち上がる。そこに「年齢」は関係ない。若手の成長はもちろんであるが、ベテランも成長はする。ましてベテランの成長は「チームジャパン」にとっても嬉しい。『変わる、変われる』と思い続け、自分を信じられる選手が生き残れるのが勝負の世界である。

 「私は頑張り続けるしかない」と話す石川。今回の決勝戦を見て心を打たれた人は少なくないはず。自分のため、周囲のため、様々な人の「思い」を背負い、石川はこれからもプレーを続けていく。優勝インタビューで流した涙がこれまでの彼女の感謝の気持ち、苦労を表している。

 

優勝を決め、感極まる石川