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2020.07.28

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【選手インタビュー・馬龍】2017世界選手権デュッセルドルフ大会男子シングルス優勝より

  • 馬龍選手監修ラケットを手に

  • 2017世界選手権男子シングルスで優勝し2連覇

昭和22年創刊、800号を迎えたニッタクニュースのバックナンバーから編集部がピックアップしてお届けするページです。

 

今回は2017年世界選手権デュッセルドルフ大会男子シングルスで優勝し、2連覇を達成した馬龍(中国)のインタビューを掲載します。

2017世界選手権デュッセルドルフ大会の男子シングルス決勝は、私(筆者:W)の中で、とても思い出深い試合内容でした。また、これまで多くの中国選手を取材しましたが、このインタビューはとても興味深い内容で、印象に残っています。インタビューは、世界選手権終了直後に行われたジャパンオープンでした。来日は取材予定日の17時でしたが、飛行機が遅れ23時に到着したため、取材は翌日の18時に変更。翌日は10時から練習していたということもあり、さすがにチャンピオンは疲れていました。しかしながら馬龍選手は「申し訳ない」と謝罪をしてくれ、彼の優しさが溢れていました。

それでは本編をどうぞ…。

 

※所属・年齢は大会当時のまま

 

インタビュー①

インタビュー②

※プレゼントキャンペーンはすでに終了しております。

 

  • 卓球の国に生まれた幸せを

 

「やあ。久しぶり。こんな姿で申し訳ないね。インタビューはアイシングしながらでいいかな。写真を撮るときは言ってくれ。アイシングを止めるから」

部屋に入るとそこに気さくなチャンピオンの姿があった。

前日の17時に来日する予定が、23時に到着。10時から練習を行い、昼食と休憩。午後に再び練習し、インタビューを開始したのは18時。チャンピオンの表情は明らかに疲れていた。

 無理もない。彼はつい1週間前まで、世界ナンバーワンを決める大会に出場しており、体力、神経をすり減らしていたのだから。

 「今大会は本当に難しい試合の連続だったんだ。2回戦のアントン(スウェーデン)との対戦。1ゲーム目を落とし、2ゲーム目は接戦の展開で取ることができた。6ゲーム目は、10―5とリードするも9点まで追い上げられ、最後は相手がチャンスボールをミスしてくれたから勝つことができた。全てを反省する必要があった。

 会場の雰囲気、フロアの感覚、自分の精神面、すべてがフィットしていない。そして勝ち上がるにつれて、プレッシャーが大きくなっていく。最後はメンタル、自分との戦いになるのはわかっていた。だから雑念をすて、精神を統一する必要があった。それができたのが、荘智淵(チャイニーズタイペイ)戦だった」

 

プラボールへの経験不足で敗退したアジア選手権

 

もともとメンタルは強い方ではない。そしてアジア選手権では早々に敗退。ナーバスになるのも無理はなかった。

 「話が前後してしまうが、4月に行われたアジア選手権。ボール(プラスチック)に対しての経験がなかった。練習はたくさんしていたが、試合での経験がなかった。それに加えて自分の調子も良くなかった。

 ボールによって、相手が戦術を変えてくるし、相手がしてくる技術、通用する技術が違う。自分もどの打ち方が適しているかわからない。これは選手としては一番困ること。ミスを恐れてしまい、消極的なプレーをたくさんしてしまった。これが敗因だった。だからアジア選手権が終わってからは、どの打法、どの戦術が効果的か研究をした。ただ、ヨーロッパ選手に対しては情報がなかった。それも前半は波に乗れなかった一つの要因かもしれない」と話す。

 

ポイントが取れる戦術

 

準決勝で、プライベートでも仲の良い許昕(中国)、決勝では、伸び盛りの後輩・樊振東(中国)と対戦する。

 「(決勝は)1ゲーム目を落としてしまったが、慌てることはなかった。世界選手権は勝ち上がるのに4ゲームが必要で、3ゲームは落としても良い。樊とは普段から練習しているし、特に気にすることがなかった。逆にゲームカウント3対1になっても、特段に心の変化はなかった。ゲームカウント4対2、4対1で勝つ必要性がなかった。4対3でも勝てばよい。だから1ゲームごとに集中した。

 トップと試合をするときは『2点』『3点』とリードするのがとても難しい。私が気にしているのは、1つ、2つの戦術の『成功率』を高めていくことである。

 ただ卓球というスポーツは、こちらの戦術が良くても勝てるわけではない。自分の戦術が成功していても勝てる保証はない。戦術成功率に加えて、試合中の『ポイントが取れる戦術』を見つけておかないといけない。もちろんその逆もあって、自分の戦術が悪くても、相手と競ることができる試合展開の時がある。いかに試合中にそれができるか。それが勝つための秘訣だと私は考える」

 チャンピオンの話は面白い。そして妙に説得力がある。

 「話がそれてしまったが、決勝はフルゲームになった。6対3で私がリード。そこで突き放すチャンスがあったが、私が凡ミスをしてしまい追いつかれ、逆転された。7対9となったが慌てることはなかった。なぜなら、7対9でゲームセットではないからね。そこからの戦術、対処が私の方が相手より少し良かった。もちろんジュースの場面は、戦術に加え本能的な部分もあったけど」

 

誰もが勝ちたいし、負けたくない

 

試合は誰もが勝ちたいし、誰もが負けたくない。まして世界選手権決勝の舞台では誰もが負けたくない、と話した。

「やはり、2015年蘇州での世界選手権優勝が大きい。あの勝利があったから、オリンピックでの優勝もあったと思う。

 正直、オリンピックは少し緊張していた。でもシングルスの後半は調子が良くて、ラケットに当たれば入る感覚が自分の中ではあった。だからこそ、冷静に最後まで試合を進めよう、と精神面に気を付けていた。団体戦もあったし、優勝した時は嬉しかったけど、普通の優勝と考えていたよ。

 世界選手権は1回目の優勝も嬉しいし、2回目の優勝も嬉しい。それぞれ道筋があるからね。でも、1回目の優勝は初めての感覚だったから、より強い印象が残っているかな」と笑顔をこぼす。

 

優勝するチャンスは全員に平等にある

 

世界選手権のような大きな大会で優勝し続けることができたら嬉しい。でもそれにはたくさんの課題をクリアしなければいけないし、新しい挑戦に挑まなければならない、と最後は力強く話した。

「今回は優勝できたけど、次はわからない。次回のチャンピオンになる資格は、全員に平等にあるんだからね。

常にレベルの高い相手と練習できて私は幸運だと思う。常に刺激が得られるからこそ、トップのレベルを維持できていると思う」

その言葉を最後に、チャンピオンとのインタビューは終了した。

 

 

馬龍選手グリップ紹介

 

「現代卓球は、20年前と打ち方が違うのと同様、ラケットの握り方も違うと思います。時代に合わせて進化していると思います。私は以前までフォアハンドが振りやすいようなグリップだったけど、現在は少しバックハンドがやりやすいグリップに調整しました。でも、私の中ではフォアハンドが重要な技術なので、フォアハンドとバックハンドの切り替えがスムーズにできるような握り方にしています」

 

深く握りすぎないように、親指と人差し指の間(合谷「ごうこく」)に指の第一関節がおけるぐらいのスペースを取っている

 

フォアハンドグリップ

 

バックハンドグリップ

 

ラケット選びのポイント

 

「人それぞれなので私がアドバイスできる立場ではないが、卓球をはじめた時は木材のラケットからはじめると良いと思います。弾みすぎでしまうと自分で打球する前に、ラケットがボールを飛ばしてしまうからです。私は木材のみのラケットから卓球をはじめ、特殊素材入りのラケットを使うようにしました。

 また、私が小さい頃は手が小さいこともあって、細いグリップでないとしっかりラケットを握ることができませんでした。現在は、身体が成長したこともあって、細すぎるとしっかり握れないし、しっかり握ろうとしすぎて手に力が入りすぎてしまい安定しないので、ほんの少し太くなっています。手の大きさにフィットして、握りやすいグリップの太さが理想。馬龍シリーズは、私が監修しているラケットで、私の手の大きさも関係して通常のラケットよりも、少し細めになっていると思います」

※ニッタクは、馬龍選手をジュニア時代から応援。ジュニア時代、ラケットは「バイオリン」→「ルーティス」を使用していました。現在は「馬龍カーボン2」「馬龍カーボン3」「馬龍5」などを共同開発!!

 

~~こぼれ話~~

馬龍選手をインタビューすることができ、記事を振り返ってみると彼の言葉にとても重みがありました。

本文でも記載していますが例えば

  • プラスチックボールに対しての経験不足

当時は、プラボールへ変更直後。セルロイド時代の戦術が通用せず、またアジア系選手、ヨーロッパ系選手で戦術が違ったそうです。

 

  • ポイントが取れる戦術

トップ同士の対戦となると「2点」「3点」とリードするのが難しい。戦術の成功率を上げることが大切。しかし自分の戦術が成功しても勝てる保証はない。試合中に「ポイントが取れる戦術」を見つけておくことが重要。逆もあり自分の戦術が悪くても勝てる可能性がある」

など。

 

こちらは記事になっていませんが、2019年世界選手権ブダペスト大会優勝直後で彼は「フォアハンドが良かったと思う。でも得意のフォアハンドに結びつけるための、小技(ツッツキやストップ)でチャンスメイクできたのが勝因」と話してくれました。その時、どのような戦術、プレーで得点を挙げているかが大切だ、という意味の発言だと思います。

ありがたいことに、これまで数多くの選手を取材させていただきました。これからもできる範囲でご紹介できたらと思います。(W)