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昭和22年創刊、800号を迎えたニッタクニュースのバックナンバーから編集部がピックアップしてお届けするページです。
QアンドAとエピソードでつづる世界選手権おもしろ史
1990(平成2)年~2008(平成20)年
新型の接着剤が大流行し、エキサイティングなラリーがふえた反面、シンナー遊びに使われ警察沙汰などあり「第五の危機」に
プレーにプラス、健康にマイナス
――接着剤とは、もともとラバーとラケットを貼り合わせるためのものでしょ。新型接着剤は、どこが違うの?
……それを塗ると、打球のコントロールとスピードが増す。だから1990年代のはじめから、世界で大流行した。
――結構な話じゃないの。
……いま言ったのは、プラス面だが、新型接着剤には、マイナス面もあって、それが問題になった。
――どういうマイナス面があるの?
……トルエンなどの人体に有害な物質が溶剤の中に含まれていて、健康によくないという問題。1992(平成4)年の夏に大阪でこの接着剤を大量に買い込んでシンナー遊びに利用した少年たちが警察につかまるという事件があった。また、この接着剤でラバーを貼り替える時にそばにいた人が気分が悪くなる、強いニオイを発するので周囲に迷惑をかける、などが起こった。
――世界選手権はもちろんだが、全日本選手権などの国内大会でも、風通しのよい場所にラバー貼り替え場所を設けるようになったのは、ガスをできるだけ吸わないようにするためなんだね。
……なにしろ競技の直前にラバーを貼り替えるのが当たり前になったからね。
――この新型接着剤は、なんと呼ぶの?
……日本では「スピードグルー」と呼んでいる。グルーに、「接着剤」の意味があるし、打球のスピードが増すことから、このような名前がつけられた。
――どうして、この接着剤を塗ると、打球のコントロールと攻撃のスピードが増すのかなぁ。
……スポンジとゴムの部分がやわらかくなるため、といわれている。
――健康面によくない、それでスピードグルーが世界に広まった現象を「卓球 第五の危機」と呼んだわけだね。
……卓球界で「第五の危機」と呼ばれたわけではないないが、私はこう呼んでいる。
08年9月1日から使用禁止に
――国際卓球連盟は、トルエンなどの毒性の強いものを含む接着剤の使用を禁止するなど、何度か手を打ってきたが、選手から見てプラス面が大きいことから2008(平成20)年北京五輪まで、スピードグルーの使用を認めてきた。その間に、後述の「こぼれ話」で紹介するような“事件”が起きている。北京五輪直後の08年9月1日から有機溶剤を含むスピードグルーの使用が全面禁止となった。
……荻村伊智朗第三代国際卓球連盟会長が、卓球が発展してゆくためには「健康によいスポーツ」でなければならないと強くさけび、1994(平成6)年に62歳で亡くなったが、あれから十数年たって、晴れて健康によいスポーツにもどったわけだね。「第五の危機」をクリアしたわけだね。
●こぼれ話
勝負に勝って接着剤で負けた話
1995(平成7)年の世界選手権天津大会で韓国の金擇洙が中国の王涛を準々決勝で破った。初優勝のチャンス。ところが試合後に失格となり、王涛が準決勝へ進んだ。
2006(平成18)年の世界選手権ブレーメン大会(団体戦)女子準々決勝で、福岡春菜がハンガリーのポータを破り、日本は幸先のよいスタートを切った。と思ったら、試合直後に失格になって、その勝利は相手方のものとなった。
この二つの事件とも“スピードグルー”を使った際に、国際卓球連盟が健康によくないとして禁止している薬物入りのものを使ったことが、試合直後の検査でわかったためである。ともに製造の際に混入したもので、本人が事前に気づかなかったという。
藤井基男(卓球史研究家)
1956年世界選手権東京大会混合複3位。引退後は、日本卓球協会専務理事を務めるなど、卓球界に大きく貢献。また、卓球ジャーナリストとして、多くの著書を執筆し、世に送り出した。特に卓球史について造詣が深かった。ニッタクニュースにおいて「夜明けのコーヒー」「この人のこの言葉」を連載。
本コーナーは藤井氏から「横浜の世界選手権に向けて、過去の世界選手権をもう一度書き直したい」と本誌編集部に企画の依頼をいただいた。執筆・発行の14日後、2009年4月24日逝去