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2024.07.03

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「毎週土日は休憩も取らずに3時間練習。そして反省会」日本の肖像 大野省三(2006年8月号から)

ニッタクニュースの人気コーナー「日本の肖像」から編集部がピックアップしてお届けします。

日本の肖像とは、各界でご活躍されている卓球人にご登場いただき、卓球を通じて学んだこと、その経験を生かした成功への道を語っていただくコーナーです。
第27回は2006年8月号より、大野省三さんです。
※所属・年齢・事実は掲載当時のまま

 


株式会社エネルギーアドバンス代表取締役社長
大野 省三

 

 

毎週土日は休憩も取らずに3時間練習。そして反省会

 

「このラバーは最高ですね。打感がいいし、強い球が出るので気に入っています」
社長室にお邪魔したとたん、いきなりラケット談義が始まった。そして、ラケットを振る。
50歳で目からウロコが落ちた。それまでは自己流だったが、東京ガスの選手が出る全日本実業団卓球選手権大会の観戦に行き、一流選手のフォームの綺麗さに驚き、改めてフォームは大事と気がついた。このころ、東京ガスサッカー部の関係者に卓球の元アジアチャンピオン劉楊さんがいることが判明、部員が教えを請うた。劉氏はのちに福原愛選手のコーチを務めたこともあり、1年間の指導で急速に部員の腕は上がった。
「このまま90歳までやっていけば、やれる人は少なくなるだろうし、年齢別大会なら勝てるかもしれない」と楽しそうに笑う。
「卓球に興味を持ったのは子どものころ。世界選手権で荻村伊智朗さんや田中利明さんが世界チャンピオンになって大活躍したのをラジオで聞いたのがきっかけ」
東京生まれ。家でテーブルを2つつなぎ、真ん中に本の箱を並べネットの代わりにした。相手は9歳上の兄で、いい勝負だった。中学・高校(新宿高)と卓球部とは無縁。「このころキチンと基本を教わっておけば良かったのです。型ができていないままきてしまった。それが返す返すも残念」

 

東大入学後、本格的に始める
本格的に始めたのは61年、東大に入学してから。「当然レギュラーとはほど遠いイレギュラー。戦型はショートとつっつき。当時からあまり動かない省エネ卓球でした。現在の仕事が省エネ事業というのも何かの因縁ですね。東大時代、実際は遊び専門で申し訳なかったと思っています」
当時は入部者が多く、同期だけで約40人がいた。同部では人数を減らすため東大駒場キャンパス外周のランニングを繰り返した。基礎練習が嫌いでさぼってばかり。要領は良かったので、ランニングもショートカットの抜け道を見つけ省エネ。怒られなかったのが不思議とか。65年卒は、卓球は下手でも仲が良かったので、卒業時には17人と大人数が残った。
「そんなわけで戦歴は全くありません。唯一対外試合をしたのは恒例の京大戦。2年に1度京都に行くのは楽しかった」
最も力を発揮したのは卓球部旅行グループの推進役として。合宿中にプランを練ってメンバーを募り、オフに実行した。日産自動車共同会長の小枝至氏とは同期。春・夏には四国や北海道の周遊。冬はスキーとよく遊んだ。遊びすぎて自動車免許を取り損ね、未だに車の免許は持てないのが大誤算。
65年に東京ガスに入社。00年に常務取締役になり、01年に現職に就く。
東京ガスでは、最初に配属された新宿営業所の卓球部に即入部。その後、部所が変わっても6年ぐらいはプレーを続けた。86年から02年まで懇親会専任ではあるものの卓球部長も務めた。
一時期、仕事が忙しくなり卓球をしなくなったが、息子さんが東京・世田谷にある小学校に入ったのを契機にPTAチームに参加。練習とその後の反省会を楽しんだ。その後もPTAチームを母体にしたクラブチームで卓球を続け、現在に至っている。
「部員は20人ぐらいで、最年長は80歳過ぎ。まだかくしゃくとしている。喜寿を迎える方も強い。卓球は息の長いスポーツですばらしい」
最近は女性に対する勝率は悪くなる一方だとか。福原愛選手のような速い動きをする人が多く、ピッチの速い展開にはついていけないとこぼす。「卓球はとにかく楽しい。球を打っていると血液が体中を回っているのを実感する。腰痛も卓球をしているときは出ません」
卓球をやることはさまざまな効果がある。「目はよく使う。動体視力は、歳の割には落ちていない感じ。球をしっかり見て、反応して体を動かす。老化防止にもいいみたいだ。つまずくことは多いが、転ばない。たいていの場合は足が送れる」

 

 

地下に卓球教室を建設
卓球へのこだわりもなかなか。5年ほど前に家を建てた際、地下に卓球部屋を作った。卓球台と自動球出し機も備えて1人練習ができるようにしている。「納得できる球が打てないときなどは、フォームを矯正しながら何球も打ってみる。でも機械と実践は別物。実践は機械のように安定して打ってくれない」
「卓球は生活の一部ということかな。練習はできないと落ち着きません。勝ち負けは気にしない。バックハンドなど、できなかったことができるようになったときのうれしさは別格ですね」
練習は毎週土・日に近くの学校の体育館へ。3時間休憩を取らずに練習に打ち込む。常に反省の飲み会がセットになっている。もちろん原則として、月曜日から金曜日は飲み会が入っている。
「一番の趣味はアルコール。酒が美味いというより酒を飲む雰囲気が好きなのです。酒は嗜好であって趣味じゃない。卓球と一緒にするなとよく言われますけど」という。
大勢でわいわいがやがやしながら飲むのが好きだとか。
「これも現役で働いている間でしょう。毎日が日曜日では、そうそう飲めない。だから飲むのは今なのです。幸いなことにメタボリックシンドロームの気配はない。運動の成果か内臓脂肪が少ない。ありがたいことです」
「卓球をやったことで得た財産は、大学の卓球部で多くの先輩・同期と知り合ったこと。特に仲の良いメンバーとは、今でも月に1度は会っている。飲んだり、ゴルフをしたりとか」
卓球でも同期対決をした。酒を飲んでいるとき、昔の同氏を知っている友人が「大野の卓球なら今やっても負けることはないだろう」と言い出し、「じゃあやってみるか」ということになった。結果は大野氏の完勝。1年後くらいにまた対戦したが、全員返り討ちにして、現役(?)の強さを見せつけたそうだ。
昼休みには、囲碁を楽しむ。日本棋院から免状はもらっていないが、4段格で打つ。昼食も早々に、盤を囲む。「勝負を度外視して楽しい。負けたときはどの手が悪かったか考え、次回の雪辱を目指す」
卓球部の2年先輩で東京電力社長の勝俣恒久氏とは、趣味も似通っていて何かと気になるが、全く頭が上がらない。「卓球は今では私が上。ゴルフは甲乙。囲碁は勝俣先輩が上。仕事?差がありすぎる」と冷静に分析している。
「基本的には、そのとき、楽しいと思うことをしたい。退職後、充電などしたくない」
そんなわけで「座右の銘」はないというが、抽象的な説明は嫌いで、モットーは「成果主義が盛んだが、抽象的では達成できたどうかはわからない。だから会社でも指示は具体的にほめるのも具体的にしています」と。